4つの強みを生かしビジネスエコシステムの触媒に
日本ユニシスグループは60年以上にわたり、システムインテグレーターの先駆者として、時代のニーズに応えながら、日本の情報化社会への発展に貢献してきました。そのなかで、私たちは常にお客様に寄り添い、お客様のために最後までやりぬくという事業精神をDNAとして持ち続けてきました。また、企業理念に基づき、存在意義である「顧客・パートナーと共に社会を豊かにする価値を提供し、社会課題を解決する企業」として、環境・社会の課題に真摯に取り組み、社会の持続的な発展に貢献することを通じ、サステナブルな企業グループを目指しています。
「企業の存在価値は社会に貢献することである」ということが、現在はこれまで以上に求められるようになっています。さまざまな社会課題の解決につながる事業活動、あるいは、環境や社会を犠牲にしない事業活動をしたいという志を持つ企業は増えてきていますが、VUCA(ブーカ。Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字を取った言葉。社会環境について将来予測が難しい状態を表す)と言われる先が見通せない不確実な世の中では、1社だけで社会課題を解決し、成長していくことは困難です。しかし、ビジネスエコシステムの概念と社会課題解決という概念を組み合わせると、1社ではできなくても、多様な強みを持つステークホルダー同士が協力することによって、大きな社会課題の解決を目指すことができます。当社グループは、これまでに培った4つの強み(下図参照)を活かし、異業種をつなぐカタリスト(触媒)となることで、ビジネスエコシステムの創出に注力してきています。また、ビジネスエコシステムの推進においては、「逃げずに最後までやりぬく会社」というお客様からの当社グループへの信頼が、非常に大きな強みとなっています。
デジタルトラストの概念で「コモンズの奇跡」を生み出す
私たちは、社会課題の解決を可能にするサービス、プロダクト、企業、利用者をマッチングできるビジネスエコシステムおよびプラットフォームを、「社会の共有財」つまり「デジタルコモンズ®」として創造し、提供したいと考えています。また当社グループは「国連グローバル・コンパクト」に署名しており、「人権」「労働」「環境」「腐敗防止」に関する基本10原則を支持し取り組むとともに、SDGs(持続可能な開発目標)達成にも貢献していきたいと考えています。「デジタルコモンズ」の考え方はSDGsの概念とも非常に親和性が高いため、SDGsのゴールである2030年を一つの目標として見据えています。今までは社会の共有財といえば、国や地方自治体が行う公共事業、あるいはインフラ系の企業が提供するというものでした。私たちが共有財にデジタルという言葉を組み合わせたのは、SDGsが目指す循環型社会、持続可能な社会を実現するためには、デジタルの力を活用して大量生産、大量消費の世界から脱却しなければいけないとの考えからです。
デジタルコンテンツは、圧倒的に低いコストで再利用することが可能です。現在では、音楽でもドラマでも映画でも動画配信サービスで提供されており、非常に多くの人に届ける際の限界費用をゼロのレベルにまで下げることができています。未稼働もしくは稼働率が低い資産は世の中にたくさんあります。デジタルの力でこれを見える化したうえで、資産同士を組み合わせるなどして付加価値を付け、未稼働だったものの稼働率を上げれば、限界費用を低く抑えられます。新たな生産を行わないことで、限界費用がゼロのモデルで社会の共有財をつくれる可能性があるというのが「デジタルコモンズ」の概念です。
私たちが考える「デジタルコモンズ」は、多くの人々の評価や信頼があって成り立つものです。情報にはトラスト(信頼性)がなければいけません。デジタルによってそれぞれの人が情報を検証することができるようになると、エビデンスを証明でき、トラストが確立されます。特に、オンラインなどの新しい組織形態では、信頼性がベースに求められますが、今まではその信頼は政府や公的第三者機関がつくり上げてきました。しかし、これだけSNSのように個人間のコミュニケーションを通じ社会的ネットワークを構築できるサービスが多様化し、発達してくると、それとは違うトラスト、信頼というものを民間の力で、民間のコミュニティとしてつくり上げなければなりません。それを私は「デジタルトラスト」という言い方をしています。
例えば、共有地である牧場をみんなが好き勝手に使ったために、牧場が荒廃して永遠に使えなくなってしまうことを「コモンズの悲劇」と呼びますが、今は地球や宇宙で同様のことが懸念される時代です。これは新たな社会の共有財である「デジタルコモンズ」にも当てはまることですが、デジタルトラストの概念は、「コモンズの悲劇」を「コモンズの奇跡」に変換できると考えています。私たちは今まで、顧客価値を追求することで業績を上げてきましたが、これからは、加えて社会的価値を創造し、なおかつそれを経済的にも成立させるという概念を追求したいと考えています。私はこれをトップダウンでやるのではなく、社員一人ひとりがそれぞれの現場、組織、あるいは個人の中でバランスを取りながらマネジメントすることによって、ビジネススピードも上がり、志やワクワク感が刺激されるのではないかと考えています。
社会に既に存在する私有財(企業・団体・個人のもつ財)や余剰財(稼働率の低い財)を、デジタルの力で追加コストの少ない共有財として広く利活用可能とすることによって、社会課題解決における社会的価値と経済的価値の両立を可能とするコミュニティ
コミュニティには、社会課題の解決という理念に共感し、協働して持続可能な社会の実現を志す企業、団体、人々が集まり、参加者同士の信頼と規範のネットワークのもと、さまざまな財を共有財として互いに提供・利用します。また、デジタルの力によって財の性質を見える化・見せる化し、財と財の最適な組み合わせや提供者と利用者のマッチングを行うことにより、財に新たな付加価値を生み出します。
付加価値の付いた財を社会課題解決のための共有財とすれば、適正な利潤が得られるため、社会的価値と経済的価値が両立します。これにより、よりよい社会を創りたいという企業や人々の行動変容を促し、ゼロエミッションと持続可能な社会が実現されていくと考えます。
中期経営計画「Foresight in sight 2020」の進捗
中期経営計画「Foresight in sight 2020」(2018年度-2020年度)は、2020年度で最終年度を迎えました。今中期経営計画では、「ネオバンク」「デジタルアクセラレーション」「スマートタウン」「アセットガーディアン」の4領域を、社会課題の解決が期待され、中長期的成長が見込まれる市場であり、顧客・パートナーと共に日本ユニシスグループのアセットが活用できると判断し、注力領域に定めました。4領域は対応する社会課題により、それぞれの垣根を越えてクロスファンクショナルに活動しています。
2019年度の業績を振り返りますと、注力領域におけるデジタルトランスフォーメーション関連ビジネスが堅調に推移したほか、生産性向上施策の効果などにより増収増益となり、営業利益および親会社株主に帰属する当期純利益ともに過去最高益を更新しました。また、営業利益率は8.4%となり、2020年度を最終年度とする中期経営計画の目標である「8%以上」を1年前倒しで達成することができ、非常に順調な進捗であると手ごたえを感じています。
この堅調な業績をけん引している要因の一つが、企業のデジタルトランスフォーメーションへの取り組みの加速です。IT投資に対する経営者の目線は、これまでの業務効率化から、デジタルで武装しデータ活用をすることで競争優位性を高めることに変わってきており、当社グループのデジタルトランスフォーメーション関連ビジネスも大きく拡大しています。
また、企業の存在価値は社会に貢献することであるという考えが広がるなか、当社グループはこれまでビジネスエコシステムという概念を提唱してきました。社会課題を解決するようなビジネスは1社だけで実現することはできず、競争優位を勝ち取ることはできません。そのようななかで、当社のようなビジネスエコシステムのカタリストへのニーズが当たり前になってきています。そのため、私どもは社会課題を解決するサービスの創出のために、従来型ビジネスであるICTコア領域の生産性向上に取り組んできました。ただ生産性を上げろというだけでは人は動きません。今までにない価値やサービスを創出し社会課題を解決するという志と、新しいものを世に出すワクワク感が、結果としてコアビジネスの圧倒的な生産性向上を実現し、全体の収益性向上につながっています。
足元の事業環境を見ますと、新型コロナウイルス感染症により経済、社会活動が制限された影響は今後も長期化すると予想され、ICTコア領域については、投資の抑制やコスト削減に向けた動きが生じることが見込まれます。しかし、このような状況下であっても、私たちは社会課題を解決するサービスを世の中に出していこうという志をもって、持続可能な社会づくりに貢献できるよう、取り組みを強化していきたいと考えています。
新型コロナウイルス感染症対応にデジタル技術を提供
今回の新型コロナウイルス感染症により、情報の見える化の必要性が広く認識されるようになりました。自らのサプライチェーンに関わる情報を日ごろから見える化しておかなければ、感染症拡大や自然災害などに対する十分な危機管理対応ができません。デジタル技術を活用した情報の見える化を可能にする仕組みの一例として、当社グループの働き方改革支援サービス「Connected Work®」は、お客様の実情・課題を踏まえ、各種ソリューションやセキュアな環境の提供を行っています。また、デジタル技術の活用により、災害時に求められる情報の見える化を実現する「災害ネット」は、ホワイトボードに書き込むような簡便さで情報を記録でき、それが時系列に沿って可視化されるため、情報整理の手間と時間を大幅に削減できます。今回の新型コロナウイルス感染症拡大においては、当社グループが提供するデジタルテクノロジーとサービスのうち、一部を期間限定で無償提供する取り組みも行っています。新型コロナウイルス感染症の影響は長期化すると予想されていますが、お客様や社会の安心・安全確保や事業継続に貢献できるよう、今後も当社グループは取り組みを進めていきます。
主体的・自律的な行動を求める風土の醸成
中期経営計画では、「風土改革」も重点施策の一つとして取り組んでいます。多様性のあるイノベーティブな風土を醸成するため、創造性・革新性を持つ組織への改革をはじめ、多様な視点を取り入れるための組織変革、そして個人の創造性・革新性を生かすための人財育成プログラムなど、さまざまな観点からの取り組みを継続してきました。このような状況で発生した新型コロナウイルスの感染拡大により、社員一人ひとりが主体的に考えて動くことが求められる場面が一気に増えました。
当社グループのコーポレートステートメントである「Foresight in sight®」は、Foresightが「先見性」で、業界の変化やお客様のニーズ、これからの社会課題を先んじて想像し把握するという意味であり、「in sight」は「見える・捉えることができる」という意味と、「洞察力」という意味の「insight」のダブルミーニングになっています。これについて、私はForesightを「妄想しようよ」という言い方をしています。この不確実で不透明な世の中にあって、予見できない将来を勝手に妄想してみる。それが当たるかどうかは分かりませんが、そこから行動に移して、観察して、違ったらまた変えていけばいい。新しいものを生み出しやすい環境をつくり出すために、社内の承認基準を下げ、権限委譲も進めてきました。あるレベルまでは社員が勝手に動くことで、OODAループ(Observe(観察)、Orient(状況判断、方向づけ)、Decide(意思決定)、Act(行動)の頭文字を取った言葉。「見る」「分かる」「決める」「動く」の4段階の行動を高速で回すことで成果を出すための意思決定方法)が回ります。そこから社員が自律的になり、さらに今回の新型コロナウイルス感染拡大を受けて、自律的から進化し、置かれた状況を理解して主体的にふるまう社員が増えており、私たちの新たな強みになりつつあります。
また、当社ではエンジニアに対して「週に連続3時間は今の仕事をしてはいけない」というルール(Time to thinkの頭文字を取って「T3活動」と呼ぶ)を定めています。彼らも、当初は何をしていいか分からなかったようですが、4年目を迎えた現在では、その時間を利用して外部ネットワークを築いたり、社内のSNSで新しいサービスの議論をしたり、そのために遠くは福島までヒアリングに出かけた社員もいます。また、発案したアイデアの実現に悩む社員に対して、実現に必要な立場の人間を私が紹介するなど、具体化に向けたアドバイスをする取り組みを、単体のアイデアを星に、星をつなぐサービスを星座になぞらえ「プラネタリウム・イニシアチブ」と名付けて行っています。また、今は正式なプリンシパル人財育成プログラムとして定着している「Next Principal」は、もともとは若手社員の人財育成や新規事業立案をサポートするために私が専務時代に行っていた私塾の考えが前身にあり、長年にわたりこのような取り組みを推進してきました。EV/PHV向け充電スタンドのネットワークシステムの構築や、バーチャルパワープラント実証事業への参画などといった、IT会社らしからぬサービスや取り組みを世の中に出せるようになったのは、このような企業風土が根付いてきたからだと考えています。
ビジネスエコシステムを創り上げ、オープンイノベーションを加速させる創造性・革新性を持つ組織への改革を進めるため、組織の壁を壊す取り組みも意識的に行ってきました。社長就任時から今に至るまで、組織改編を繰り返してきましたが、半年ほどのペースで組織改編を行っていたことで、社員も変わることに慣れ、人の交流も生まれて、異なる業種のサービスから学んだことを活かしてお客様に提案できるようになっています。
「学びに活かすことができればプラスに」失敗を恐れなくなる人事評価制度
当社グループでは「風土改革」において、ダイバーシティ推進を重要な取り組みの一つに掲げています。女性の活躍をはじめ多様性を尊重する風土が浸透してきたことで、自律的に行動する社員が増え、新規事業創出に向けた活動や職種・組織を越えた取り組みも活発に行われています。今、ダイバーシティ推進において、私が重視し、まず社員に求めていることは、自分の中に多様性を持つこと、「個」の中の多様性、すなわちイントラパーソナル・ダイバーシティです。自分の中に多様性がある人ほど、人の多様性も受け入れられます。社員には、こういう社会課題を解決したい、こういうサービスを世の中に問うてみたいという強い思いや志を持ってもらいたいと思っていますが、これは1人だけ、1社だけではできず、やはり多様性を身に付けることが必要になってきます。そのためには一人が複数の役割=ROLESを持つことが必要になりますし、それによって役割の範囲を限定せず、自ら責任をもって主体的に動くようになるので、ビジネススピードも最速化できます。不確実な時代には、「知の深化」と「知の探索」という矛盾した概念を一人の中で両立させる「両利きの経営」という概念が必要であり、そのためには、数多く失敗し、その失敗から学んで次に活かすという体験が重要になります。「成功のKPIは失敗の数である」と私は常々言っていますが、単独では上手くいかなかったビジネスも他と組み合わせることで生きることがあります。失敗を学びに活かせるよう、人事評価の項目に「チャレンジ」を入れています。
新しいスキルを身に付けることによって、デジタルの力で世の中をより良い方向に変えていけるという思いは、当社グループの存在意義が「社会課題の解決」にあるということにも関係しており、今後の会社にもリーダーにも、志として受け継いでいってもらいたいと考えています。今まで通りのやり方を踏襲せず新しいベクトルを示すことができるイノベーション・リーダーシップ、さまざまな事業を塊として見ることができるポートフォリオ・リーダーシップ、そして「デジタルコモンズ」につなげていくためのモラル・リーダーシップを、次世代のリーダーに求めています。モラル・リーダーシップには「私たちは持続可能な循環型社会をつくるための活動をしているのだ」という意識が表れるので、最も重要なスキルであると考えています。
ワクワクする未来へ向けて行動する会社であり続ける
今までは生産と消費という発想による資本主義経済でしたが、デジタルの力で見える化することで、より良い社会価値を創造する「デジタル資本主義」という新たな経済概念が生まれてきています。今までは情報は、トップや提供者側だけが持つものでしたが、一人ひとりが情報を持てる時代になり、見える化によってそれが一層推進されることで、そこにはデジタルトラストの概念も生まれてきます。デジタル資本主義においてコミュニティに積極的に参加することは、一人ひとりに社会への参画意識を生み出します。さまざまなステークホルダーと志や共感に基づく「デジタルコモンズ」の構築を目指すことで、より良い社会に向けた行動変容を促すことができ、人々はおのずとワクワク感を感じるようになります。
一方、「自分が何をやっても世の中は変わらない」という思いは無力感、諦めにつながります。2019年に当社グループが協賛して製作、公開された映画の中で、「無理だと思った瞬間、人間はその思考に負ける」というセリフが出てくるのですが、この映画は当社グループの社員が実際に立ち上げた保育関係の新事業がテーマになっています。当社グループの社員は、自分たちの志が世の中を変え、人々の行動変容を促すことができるという意識で事業に取り組んでおり、そういう会社であり続けたいということが私の一番の思いです。
私たちはこれからも社会課題解決の実績・知見と、志を共にする人々とのネットワーク、長年の経験にもとづくデジタル技術を組み合わせて、「デジタルコモンズ」の社会実装を通じ、ワクワクする未来へ向けてこれまでにない社会の仕組みをつくり出していきます。
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